あの遠い日の雑誌への旅
佐野亨





 古本屋の店頭に古い雑誌が山積みになっているのを見かけると、もう無条件に、その山をくずしにかかってしまう。
 本が時間を集積するものだとすれば、雑誌は集積されるまえの流れゆく時間そのもの、つまりリアルタイムの「ざわめき」なのである。
 雑誌の「ざわめき」に耳をすます。
 あの日が、あのときが、ことばをとおして甦ってくる。
 このとき重要なことは、ページを繰る、という指の動きだ。物理的な質感が指につたわることで、わたしたちは過ぎ去った時間を、「体感」としてとりもどす。あるいは、古い紙のにおいを吸い込むことで、まるでそのときのにおいまでもが思い出されてくる。『時をかける少女』の主人公が、ラヴェンダーのにおいとともに時をかけたように、ものの手ざわり、においはわたしたちをひとときの時間旅行へといざなう。
 あの遠い日の雑誌への旅に、今日もでかけてみようか――。

佐野亨(さの・とおる)
編集者、ライター。編書に『心が疲れたときに観る映画 「気分」に寄り添う映画ガイド』(立東舎)など。キネマ旬報ベスト・テン選考委員。国立映画アーカイブ客員研究員。

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