オコエ便り
真魚八重子

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第11回



 12月でオコエがうちに来てから丸二年になる。先日はわたしも猫の爪切りがとうとう出来るようになった。不器用だから怪我をさせるのが怖くて夫に任せていたが、爪を切る休日になると、夫が出勤せず家にいる=爪を切られると気づいたオコエが早くから心を閉ざしてしまう。なので夫は不満を感じているようだったし、ただでさえわたしは自宅でのライター業のため、オコエと一緒にいる時間が多いから、夫に嫌われ仕事を任せて申し訳ないと思っていた。そしてようやく勇気を出して爪を切ってみたら、いつも通り洗濯ネットをオコエにかぶせることは必要だったが、意外にスムーズに出来た。オコエのショックも軽かったようなので、我が家では大変な進歩となった。
 猫を初めて飼って気が付いたのは、冬場の猫は静電気がひどいということだった。そんな話、猫飼いの人たちがしているのを聞いたことがないのに。当惑してネットを検索したところ、猫の静電気は結構他の人たちも悩んでいる様子だった。人間側で対処をするしかないが、猫は毛づくろいをするので、なめた時にヘンな添加物の入ったハンドクリームが移らないよう、手の保湿は自然のものを使うように書かれていた。オコエの体重は3キロで、改めてちょっとした薬品も小さな猫の体では負担が大きいのだなと感じた。
 静電気は猫の体の先端で起こりやすい。中でも特に、耳の先と鼻の頭でパチッとなることが多い気がする。オコエもビリッと来た瞬間に、時々ひょっと身をかがめるので痛いのかもしれない。なので、最初の年は静電気防止のブレスレットを購入し、冬の間じゅう着けていた。でもなんだか気休めの気がして、翌年は代わりにこれまでより大きな加湿器を置き、オコエも頻繁に濡れタオルで拭いた。それで多少は静電気が弱まった気がする。オコエも温かい蒸しタオルで撫ぜ回されるのは、わりと嫌いじゃないみたいだ。
 そして冬になってホットカーペットをつけ、ブランケットを使うようになったら、オコエがわたしの股の間に割り込んで眠るようになる。何もしないで座っていたら乗ってこないのに、ブランケットをかけた途端にオコエの目の色が変わり、いそいそとやってくる。でも腿の上に乗ってくれるならいいけれど、オコエはわたしの脚をこじ開けて間に挟まってくるので、こちらは開脚したなんともみっともない恰好で横になる羽目になる。
 人間の脚に挟まりたがる猫は、その人に心は許しているけれど構われたくない子なのだという。確かにわたしが顔を至近距離に寄せて一緒に眠ろうとすると、しばらく我慢はしてくれるものの、結局オコエは落ち着かないように立ち去ってしまう。でもうちに来てくれただけでいい。オコエがしてほしいレベルで、最大に甘え合えたらそれだけで毎日キュンとなっている。

真魚八重子(まな・やえこ)
映画文筆業。キネマ旬報、朝日新聞、ハニカム等で執筆。最新刊『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)が発売中。

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