オコエ便り
真魚八重子

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第3回



 オコエの怖がりであまり甘えん坊じゃないと思っていた性格も、慣れるにつれて変わってきた。うちにやってきたその冬の間にはすでに、自分から膝に乗るのは苦手なままでも、わたしの足のすねにそっともたれかかったりしてくるようになった。でもそれが出来る場所はいまだにリビングに限られていて、別の部屋では落ち着かないようだ。寝室の布団の上は歩いて渡るだけで、フカフカの羽毛の上で眠るとか、暖を求めて布団の中にもぐり込んでくることはない。猫の飼い方まとめサイトには「怖がりの子は布で包むとおとなしくなります」という文言があったのに、オコエがタオルに座っているとき、布の端を掴んだ瞬間に異変を察知して逃げ出してしまう。
 オコエはテンションが低めの猫だけれど、午後8時くらいの猫じゃらしで遊んであげる時間にははしゃぐ。ただ最初は、わたしもオコエも距離感が互いに掴めなくて、じゃれている最中によく噛まれてしまった。オコエが警戒しているのか、戯れのつもりなのかを読み取れなかったし、手を舐められるのを期待していたらガブッとやってくる場合が多かった。当然、流血沙汰もしばしば。しかしオコエとしては嫌がらせで牙を立てているのではなく、遊んでいる表現方法として噛んでしまうのだ。そのうちわたしが手をうまくかわせるようになり、オコエもわたしの反応から手加減を覚えてきた。いまは猫じゃらしタイムに興奮してフワッと噛みかけることはあっても、全然怪我はしなくなった。
 そんなオコエがこの冬、ユニクロのブランケットを大変気に入った。不思議なもので、わたしがウールのボトムスをはいた状態の足には乗ってこないのに、その上にブランケットを掛けただけで、待ってましたと言わんばかりに上がってくる。ただ、腿の上の高さは落ち着かないのか、自分の脚や体でグググッとわたしの膝をこじ開けて隙間を作り、そこにポッカリはまり込む。
 そうやって触れ合って眠る時間や機会が増えるにつれて、最近、急激に「撫でて」と催促してくることが多くなった。これまでもわたしが仕事をしていると、時折後ろに座り込んでじっとり見てくる時はあったものの、今年に入ってからは撫ぜるまで執拗に鳴き続けて要求するようになった。あまりに何度も居間へ呼ばれるので、最近は仕事机ではなく、オコエがいるそばの座卓で原稿を書いている。わたしがペタンとホットカーペットに座った足のくの字の所に挟まってきて、膝やふくらはぎを枕に眠っていることが多く、起こさないように気を遣う。限界まで我慢して、痺れた脚をやっと組みかえるとオコエが(何?)という感じで薄目を開ける。
 いまもオコエが仕事部屋で後ろを歩き回り、しきりにニャーニャー言っている。「構って!」の圧がすごくて仕事がおろそかになりそうだ。

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