オコエ便り
真魚八重子

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第7回



 コロナ禍で自宅にこもる生活をしていたら、すっかり気が緩んでしまい昼夜逆転してしまった。小学生の頃から夜更かしをしてきた筋金入りの遅寝なので、夏の時期には空が白み始めるまで起きているなんてザラだ。飼い猫のオコエも昼間は身動きせずに寝入っているのに、夜はわたしに付き合って起きている。雨の日は気怠いのか、比較的わたしよりも早寝のようだけれど、それでも時折、眠っていたはずの電気を消した部屋からとことことやってくる。そして仕事やゲームをしているわたしに、撫ぜてもらおうとしてしばらくの間は部屋の入口でニャーオニャーオと呼びかけてくる。わたしは適度にやり過ごしつつ、オコエがあまりに絶え間なく鳴き続けるときは、作業を諦めて撫ぜにいく。オコエは部屋のドアのところでこちらを見上げながら、わたしが近づくと足踏みして隣室のカーペットに行こうとするので、オコエを踏みそうになってしまう。
 オコエは撫ぜてもらうのを、なぜかリビングと決めているようだ。(ここで撫ぜて!)と言わんばかりに、わたしの目線を捉えつつカーペットに身を投げだす。わたしはまず両手でオコエを鷲掴みにし、その横腹を絞るようにしっぽにかけて撫ぜる。肩から太ももの辺りまで繰り返し撫ぜていると、オコエは徐々に高まってきてお尻を高々と持ち上げ、そのうちドタッと横倒しに倒れる。興奮から崩れ落ちるまでの流れが、ちょっと人間の性的な動きにも似ているなあと思う。それから横たわったオコエは片腹を見せてちょっと丸まりながら、しきりに肉球をなめて顔を洗い始める。顔は足で覆っていない限り、こちらを流し目で見つめている。その姿勢のまま腹を撫ぜおろすのを繰り返すのだが、キリがないので手を離すと(なに?どうしてやめるの?)といった表情で、頭を持ち上げてこちらを振り返る。猫と人間の根競べだ。 そして興奮したオコエは立ち上がると、力の入った尾をユラユラさせつつ、ひげの生えた頬をわたしの腕や手にこすりつけ、体を寄り添わせてわたしの周りを回り出す。特にわたしが床に手をついている時、脇の下の空間をトンネルのようにくぐっていくのが好きだ。その時に尾の先までわたしの腕に絡めて、親愛の仕草を見せる。そういった一連の動作をして、満足するとオコエはそっぽを向いて、スフィンクスのように座りぼんやりし始める。
 わたしの方からオコエを撫ぜるときは、大体おちゃらけているので少々荒っぽくなってしまう。オコエがあくびをしていると、口を閉める際に噛むか確認したくて指先を突っこもうと試みる。でも口が小さいので、一度も間に合ったことがなくて、ムンと閉じた口先に指を押し当てて終わりだ。あとは眠りから覚めて、まだ寝ぼけているオコエの顔に自分の顔を思い切り押し当ててみたりする。寝ているとぬくもりが溜まっているので、優しいボカボカした毛が心地良い。わたしが強引なので、夫には「オコエが可哀想」と言われる。でも猫にも表情があって、わたしがじゃれているとき、オコエの口角は笑みのように膨らんで持ち上がっているし、黒い毛でおおわれた顔や頭に無理やりキスしても流すように受け入れているので、そんなにオコエは嫌がっていないと思う。

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