オコエ便り
真魚八重子

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第9回



 元野良猫のオコエは家の中でも放浪している。寝場所が毎晩のように変わっていくのだ。そのためオコエが今日はどこで眠っているかを確認してからじゃないと、落ち着いて眠りにつけない。気候の良い時期ならまだしも、オコエは夏場にひなたで寝ているような(体温管理がちょっとおかしいのでは)と思うときもあるので、自由気ままにさせておくだけでは危険な気がする。なのでクーラーが冷たすぎたり風が直接当たったりしていないか、あるいは冬の寒い日にうっかり暖房の効いていない所に締め出していないか等、チェックが必要なのだ。
 オコエの好きなねぐらはまず、リビングのテーブルと本棚の隙間に置いた、ダイソーで買った猫用ベッドのクッションだ。もちろん安い。元々カゴとセットなのだが、中に敷くクッションだけがお気に入りなので、カゴは処分してしまった。いまではそこに小さく丸まって眠るのが、オコエの昼間の日課となっている。その次に好きなのは、わたしの仕事部屋に転がっている紫色のベルベットのクッション。最初は結構厚みがあったので横たわれる感じではなく、オコエも最初は警戒して近づかなかった。しかしわたしが座布団代わりにしたりして、1年ほど経って薄くなってきたら不意に気に入ったらしく、最近は毎日ここに立ち寄ってはひと眠りしている。
 わたしの仕事部屋には、掃除機をかけている間や、爪を切られて怖い思いをした場合に避難する、衣装ケースの天板もある。背の高い本棚に挟まれ、椅子やバッグの陰になっているので身をひそめたい気分の時にピッタリなのだろう。我が家ではその状態を「引きこもっている」という。そのため、何も起こっていないのにそこで眠っている時は(なんだろう、虫の知らせかな……)と、ちょっと心配になったりもする。
 コロナ禍で新たな寝場所になったのが、リビングのテーブル脇に積んだ小さな折り畳みマットレスである。これはわたしが夜遅くまでゲームをしているとき、わたしにかまってもらうのを諦めたオコエが、わたしの傍らでわたしを見つめながら眠ることで始まった。逆に回数がめっきり減ったのが、サメの形をした猫ベッドだ。ドーム型になっていて、籠る雰囲気が心を閉ざすときにはちょうど良かったが、底がペラペラで寝心地の問題があるのか、ほとんど入らなくなってしまった。
 あとは、気まぐれにキャットタワーの3階で丸まっていることもあるし、夏の間の一過性ブームだった、寝室の布団の上というのもあった。上布団のさらに上で寝るのは、通気性が良くて意外に涼しいのかもしれない。
 冬になればペット用のホットカーペットを出すので、また眠る場所が変化していくはずだ。でも暖房よりも簡単に、今年こそオコエが温かさを求めて膝に乗ってくれないかなあと、冬の寒さも心待ちにしている。

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